「大原美術館所蔵名品」展

先日、千葉市美術館に行ってきた。埼玉に住んでいる自分としては、千葉に行くとなると、ちょっとした遠征気分。電車だけで片道2時間程度かかる。そこまでして何を見にいくのか。行った日が最終日だったから、これを読んで行きたいとなると、岡山まで行ってもらうしかあるまい。そう、岡山にある「大原美術館」の所蔵品展が千葉市美術館で開催されていたのだ。
 
大原美術館は、岡山市の富豪・大原孫三郎が設立したものだ。大原孫三郎については城山三郎の『わしの目には十年先が見える』(新潮文庫)に詳しい。読んで損はないので、文庫であるし、一読を薦めたい。
 
大原は岡山で児島虎次郎と出会う。児島をパリに留学させる段取りを図り、その代わりにパリで絵画を購入させる。児島が渡欧したときは1910年代で、当時ヨーロッパを席巻していたのが印象派である。それゆえ、所蔵する絵画は印象派が多い。大原が絵画を購入した目的は、鑑賞ではなく、絵画の勉強のためでだった。ヨーロッパへ留学するには金銭的負担が大きい。そこで、ヨーロッパで主流となっている絵画を買っては、国内に残っている画家志望の青年たちにその絵を見せ、そこから絵画を学ぶ、という目的をもっていた。それゆえ、所蔵品には一人の画家だけではなく、さまざまな画家の、さまざまな構図の絵画があり、その統一性には欠けるものが多い。ただ、多種多様な絵画があることで、多角的な視野から国内でヨーロッパの主流のスタイルを学ぶことができるから、大原が目指したものからすれば、統一性はあるといえるだろう。
 
城山三郎『わしの目には十年先が見える』を読んでいたので、たとえ名のしれていない(私が知らないだけかもしれないが)画家の絵を見ても、大原の意図を見出すことができ、観覧に行った甲斐があったというものだ。もちろん、当時パリの気鋭の画家の絵をみることで、感銘を受けることもあったし、大原が用意した絵画で学んだ画家たちの絵もまたすばらしいものがあった。それゆえ、岡山の大原美術館へ行ってみたいという欲求も増した。
 
余談だが、千葉市美術館は、JR千葉駅からやや離れた場所に位置し、千葉市中央区の区役所にある。町並みは再開発を行なったのか、整然としており、秩序だった町並みであった。千葉市自体、本格的に足を踏み入れるのは初めてだったので、興味深いものがあった。知らない街を散策しながら、時を過ごすのも一興であるし、好きだからである。観覧を終え、一服したいと思い、喫茶店を探すも、見つけることができなかった。探し方が悪いのかもしれないが、昔からある素朴な古びた喫茶店で観覧の余韻に浸ることができなかったのは残念だった。町全体に若々しい印象だけが残った。千葉大のある西千葉にいけばちょっとは変わるかもしれないが、街の中心地である千葉駅付近に歴史を感じさせる雰囲気がないのは個人的には残念な気がする。自分が住んでいるところは、新興住宅地であるから、それと似た印象を受けた。自分が通っていた明治大学のある御茶ノ水、レッズを観戦に行く浦和、そう、文化の匂いがしないのが千葉かもしれない。再開発で街をリニューアルすることは必要なことだが、そこから歴史、文化の匂いを失わせると、無機的な、味のない街ができあがってしまう。上野周辺は別格としても、文化・歴史が息づくところに美術館があると、一味違った鑑賞ができるかもしれない。