浦和レッズ対パラグアイ代表 観戦記(2)

ここでは、試合以外のことにふれてみよう。なにせ、わざわざレッズの試合を見に松本まで遠征したのだから。しかも、公式戦ではなく、親善試合なのに!
 
試合は長野県松本市(以下、松本)でおこなわれた。というのも、パラグアイ代表が松本でワールドカップの事前キャンプを行っているからだ。松本は長野県の主要都市。上高地の玄関でもある。昨年9月に上高地を訪れて以来となる。
 
松本へいくには中央線を使うのがメジャーだ。新宿から松本まで直通の特急が走っている。だが、今回はそのルートは使わなかった。長野新幹線で長野へいき、篠ノ井線で松本へ向かうルートだ。私は埼玉に住んでおり、しかも高崎線を利用しているので、熊谷から長野新幹線を利用することにした。熊谷−長野間は約70分。自宅の最寄駅から新宿にいくには約60分かかる。新宿へ出るまでに、自分は軽井沢あたりにいることになる。いわば、新宿へ出て、中央線の特急を乗るよりも、長野新幹線で長野へ行ったほうが早い。
 
実際いってみて感じたのは、長野と松本には深い断絶があることに気づいたのだ。普通列車は1時間に1本あればいい方で、ほとんど特急が走っている。長野−松本間は鈍行で約70分の距離にもかかわらず、自由な行き来はできないことになっていた。長野県を代表する都市が空間としてのつながりをもっていないことには驚いた。
 
長野−松本間を走る篠ノ井線は魅力的であった。長野駅から聖高原駅までは、山沿いを走り、盆地全体を眺めることができる。途中川中島駅があり、戦国時代を思い出させる地名も豊富だ。盆地を眺めることができるので、戦国時代の武田・上杉の戦闘風景が想像できるのは楽しい。また、眼下には棚田が見え、この地域の暮らしぶりも想像できる。途中下車しながら旅するのも楽しいことだろう。だが、電車の本数がほんとうに少ないので、それなりの計算が必要になるだろうが。途中に、姨捨(おばすて)駅があり、この駅の構造もおもしろい。駅と線路は通常一緒だが、この駅は、乗り場と線路が別々になっている。駅で乗り降りするために、線路を変えなければならない。ちょうど、スイッチバックするような感じだ。あちらこちらでバックしたり、とまったりと忙しいが、それも田舎を旅する楽しみの一つではなかろうか。
 
聖高原駅から松本までは、平地の中を走る。聖高原を過ぎたあたりから、日本アルプスが見え隠れする。近くの山々は緑でおおわれているが、彼方に見える日本アルプスには残雪あり、山肌と残雪のコントラストは絶品だ。明科駅になると、日本アルプスはもう目の前だ。聖高原駅には、観世音菩薩が祭ってあり、旅の祈願ができる。駅構内に観世音菩薩が祭られているなんで、驚きだった。
 
試合が行われる会場は松本アルウインというところだ。松本空港のすぐちかくだ。空港に近いということは、駅から遠いということになる。実際、バスで20分から30分かかった。空港の近くなので、アルウインの敷地内に管制塔があり、アルウインに着いてから、JASの飛行機が2機飛んでいった。試合中にも飛んでいき、場内の雰囲気が飛行機にもっていかれたような気もした。
 
アルウインスタジアムは球技専用なので、サッカーを観戦するにはもってこいだ。ちょうど駒場スタジアムの陸上トラックをなくした感じがする。ピッチから3メートルぐらい高いところに位置しているので、最前列でも見やすい。観客は1万5千人ぐらいいただろうか。片方のゴール裏はレッズのサポーター用に使われ、試合を盛り上げた。ゴール裏だけでなく、メインスタンドにもレッズサポーターがおり、全体の3割から4割ぐらいいただろうか。ちなみに私はメインスタンドで観戦した。親善試合ということで、場内もなごやかな雰囲気であり、目玉のチラベルトにもレッズ側から声援が飛んでいた。
 
帰りの話だが、松本駅で時間をつぶすため、駅ビルの喫茶店に入った(長野行きの電車まで約1時間待たなければならなかったのだ)。一服して、周りをみる余裕ができると、隣から聞きなれた声と口調がする。そう、隣に宮沢ミシェル(元ジェフ市原、現解説者)がいたのだ。テレビから聞こえてくる声がそのまま聞こえてきたのだ(当たり前か)。周りの様子を確認すると、だれも気づいている様子はない。解説者だし、現役じゃないし、プライベートを楽しんでいるようだし、サインをもらう準備なんかしていないし、と逡巡しているうちに、店をでてしまった。そういえば、アルウインで自分が座っていたところの真上に放送席があり、宮沢ミシェルらしき人物が見えたので、宮沢ミシェルが解説をしていたようだ。
 
帰りの電車の連絡は最悪。松本で長野行き電車を乗るのに約1時間、長野駅では熊谷に停車する新幹線が2時間半後ということで、結局30分後に発車する電車に乗ることにした。都合、2時間程度のロスが生まれたことになる。電車で読むために本を3冊持っていったが、松本までに2冊読み、松本で2冊買い足した。帰りも接続が悪いため、本を読み漁り、結局、5冊のうち4冊よんでしまった。
 
ワールドカップのチケットを入手できず、ふん、ワールドカップなんて、と思い、テレビ観戦に徹しようとしていた。その矢先の、このゲームである。浦和レッズパラグアイが試合をするなんて、そうそうあるものではない。これもワールドカップのおかげだろう。一足先にワールドカップを味わえた感じがする。ほかのキャンプ地ではいろいろごたごたあるようだが、松本はパラグアイチームとうまくやっているようだった。仙台や新潟では試合が流れたようだし、この試合が予定通り行われたのも松本とパラグアイとの友好関係に起因するのだろう。チラベルトは松本がお気に入りのようだ。家に帰ってこの試合のビデオを見たが、そこで宮沢ミシェルが「松本はパラグアイの風景に似ている」というようなことを言っていた。パラグアイチームは松本に故郷を見たのだろうか。それが真実とすれば、パラグアイと松本の関係も自然と良好になるはずだ。故郷と似ている、という感覚がチームをリラックスさせ、ワールドカップに突入できる体制が整う。ほかのキャンプ地はどうなのだろうか。