日本対スロバキア 観戦記

今日の試合を観戦する上で、注意する点はほとんどなかったといってよい。というのも、ワールドカップ本大会におけるシュミレーションができるとは思えなかったからである。たしかに、今季負けずに2勝1分という成績できていることは喜ばしいことである。ただ、負けている状況でのトルシエの手腕を実験する場がないことが不安である。おそらく、レアル・マドリード戦は負けている状況での戦いとなるだろう。条件、メンバーとしてレアル戦は捨て試合になる公算が高い。そうなると、ノルウェー戦が重要となろう。スウェーデン戦は直前ということもあり、無理はしないはずだ。ノルウェー戦がワールドカップ前の真剣勝負となろう。しかし、この試合はアウェイであるから、ホームで負けている状況で、トルシエ、選手、サポーターがどのような行動をとるのか、というシュミレーションはできない。そうなると、ホームで負けている状況を作るのはもはやキリンカップの2試合ということになる。今回の試合を観戦するサポーターが本番のサポーターとなることはわからない。日本の応援というものはこうやるのだ、ということを示すことも必要だ。慣れていない人だと、負けている状況で声を出せないかもしれない。勝っているときはイケイケだが、負けている状況ではシュンとしてしまう。負けているときに、しかもホームで、どれだけ選手をサポートできるか。これも非常に重要ではなかろうか。私は残念ながら、チケットがとれないので、会場で応援できないが。
 
スロバキアは2年後の欧州選手権をにらんだメンバー構成でくるという事前情報があった。ということは、それほど真剣に勝負してくる状況は考えにくい。特に、今年のキリンカップは総当りのカップ戦ではなく、日本が2試合でそれぞれの試合で賞金が出るパターンとなった。総当りで賞金が莫大となれば、選手のモチベーションも変わってくるはずだ。このような状況では圧倒的にホームが有利になる。日本にとってみれば、ほぼ日本サポーターでうめつくされたスタジアムで精神的にリラックスしてできる。本大会のメンバー選考という難題があったとしても、遠征国よりもやりやすいはずだ。
 
では試合はどうであったか。先発のメンバーからいえば、柳沢のポジションを除けば、ほぼ理想形ということになろう。中村が生き生きとプレーしていたと思われるが、これには司令塔のポジションを与えられたからに違いない。後半、小笠原が投入されてから、左にポジションを移したが、プレーのキレにややかげりが見えたのは錯覚であろうか。中村が活躍するには、司令塔のポジションが最適である、ということが証明された試合でもあろう。代表のメンバーを考えた場合、司令塔の位置には中田英がいるから、中田英のサブということになろう。ただ、司令塔をこなせる人材は代表メンバーには豊富にいる。小野や名波であり、あるいは森島も該当するかもしれない。そこで、トルシエの持論がでてくる。複数のポジションをこなせる、という条件だ。この条件を中村がクリアしているかどうか、がポイントとなる。現状では中村がメンバーに入ることは厳しいかもしれない。
 
中村の出来がマスコミからする焦点とすれば、私の焦点は久保につきる。久保はこれまで満足のいく時間なり、場面で使われたことはない。久保の身体能力、たとえば、左足の技術やキック力、跳躍力、スピード、を生かすには、先発で使い、相手ディフェンスがそれほど引いていない状況で使うのは一番である。サンフレッチェ広島でみせる久保の能力を発揮する機会をトルシエは用意してこなかった。今回は後半20分に投入され、小笠原からのパスから決定機をつくり、見せ場をつくった。ディフェンスの裏をとり、ダイナミックなフォームでフィールドを疾駆する久保は日本にあまりいないタイプである。いままで久保に注目する人はいなかったにちがいない。久保の能力の片鱗を今回の試合で少しでも見せたであろう。ディフェンスの裏をとる技術だけでなく、逆にディフェンスを突破できる技術ももっている。高原が肺血栓で療養中、柳沢は右サイドで使われ、鈴木・西沢の実力はすでに把握できている状況にある。今回の試合でわずか25分のプレーだけでなく、次のホンジュラス戦で先発して使ってみれば、その効果は明らかになるだろう。今の代表FWに自力でディフェンスラインを突破できる力をもつのは久保と高原である。トルシエが次戦に久保を我慢して90分つかえば、日本の救世主が誕生することになるだろう。
 
それから、試合とは直接関係ないだろうが、日本テレビの放送について一言二言いいたい。スロバキアの国歌斉唱の際、途中でCMに切り替わるという愚挙を犯した。国歌斉唱という相手に敬意を払うべきときに、当事者(テレビ)の都合で止める、というのはいかがなものか。細かいことだが、これから戦う相手に敬意を払うという思いやりに欠ける行為ではなかろうか。途中でCMに切り替わるのならば、はじめから放送しないほうがマシであろう。日本テレビの品性を疑う行為である。実況もまた不快な部分があった。戦前にトルシエが日本は60%ボールを支配する、というコメントを真に受け、5分ごとのボール支配率を表示し、その結果について解説者に問う、とうことがあった。まさにこれは木を見て森を見ず、に値するだろう。ボール支配率と試合の支配とは区別して考えるべきだ。ボール支配率が高いからといって、試合を支配しているとは限らない。こんな単純な数字に惑わされ、試合全体の流れをつかめないとは。野球中継(特に、巨人戦)と勘違いしているような気がした。最後の中村へのインタビューもおかしい。中村に代表のメンバー選考について聞いてもしたかたがないだろうに。選考するのはトルシエであろう。中村に聞くなら、前半と後半のポジションチェンジに関することとか、まわりのコンビネーションについてとか、中村自身のプレーについて聞くべきだろう。