宮部みゆきの魅力

最近のお気に入りは宮部みゆきである。この人の小説は時間の合間に読むにはいささか時間が足りなく感じるほど熱中してしまう。電車で読み、学校や勤務先で読み、家で読む。結局、電車の中だけでは飽きたらず、その日のうちに読み切ってきまうこともあった。
 
この人の特徴はなんといっても、飽きさせない文章の構成力にあると思う。そろそろ集中力が切れるなと思う頃に場面がかわり、脳が覚醒する。適度に飽きがこないようにうまく調整されている。だから、どんなに長くても時間的な制約がないかぎり、いつまでも読めてしまう。
 
構成力以外にも、登場人物の記述が克明に描かれることも彼女の特徴である。表層から内面まで、その登場人物がどのような人間であるか(時に、人間ではない場合もあるが)が映像として入ってくる。この小説を読むという行動の中で、映像として入ってくる作家は間違いなく面白いし、それほど存在しないだろう。私はあまり手を広げずに読み、これと決まったらその作家をとことんまで追いかけるくせがあるから、他の作家をあまりしらない。ともかく、文字を読んでいるにもかかわらず、文字が映像に変わるとでもいうのだろうか。この感覚に陥るのが池波正太郎である。鬼平犯科帳しかり、剣客商売しかり。池波正太郎は脚本家を兼ねていたこともあろうが、宮部みゆきは普通の作家である。普通という意味は作家だけで飯を食うということである。
 
さらに、特徴を挙げるとしたら、ひとつひとつの小説にテーマがあることである。もちろん、テーマのない小説はないだろう。彼女のテーマは主に社会問題である。処女長編となった『パーフェクト・ブルー』(創元推理文庫)は新薬の実験にまつわるもの、『蒲生邸事件』(文春文庫)は二・二六事件を舞台としたタイムトリップ、『魔術はささやく』(新潮文庫)は記憶喪失と催眠術、『龍は眠る』(新潮文庫)はテレパシーに関する超能力、『今夜は眠れない』(中公文庫)は家庭内不和と遺産相続にまつわる話、最新作の『R.P.G』(集英社文庫)はチャットに代表されるインターネットにまつわるもの、となかなか普段情報が入りにくいテーマをミステリー仕立てで容易に理解でる程度にまでかみ砕いて述べている。
 
もちろん、実際に読むのが一番いいに決まっているが、上記の特徴から、彼女の魅力をまとめてみよう。その時代時代の社会で話題に上がるものを一応のテーマとし、それにまつわる人間模様をミステリーとして仕立てる。場面の展開や人間模様を描く技術は読む人をひきつける。登場人物の内面を深くほりさげ、テーマのテーマと見事にリンクさせる。この技術があるから、彼女の作品は長編がとびきり面白い。長編でこそ彼女がもっているすべてを発揮できると思う。是非、長編を読まれたし。ゴルゴ13の作者さいとう・たかをはゴルゴを劇画とよんだ。簡単にいえば、映像を漫画化したものである。彼の言葉を借りれば、宮部みゆきの小説は劇文、あるいは劇画小説となろうか。