読後感:増島みどり『ゴールキーパー論』

この著書の功績は、常に陽が当たらない、目立たない、しかし、非常に重要なポジションに視点を当てたことであろう。
ゴールキーパーと聞き、思い出すのはまずサッカーである。サッカーはゴールを目指すスポーツである。そのゴールを阻止するのがゴールキーパーである。ゴールキーパーは常にシュートの危機にさらされる。ゴールキーパーの評価は0点に抑えて当然、失点はほぼゴールキーパーの責任というものにされる。

ゴールキーパーはゴールを奪うというサッカーの華に関われないため、一般的には敬遠されるポジションであろう。しかし、この本を読んだら、そうは思わないだろう。ゴールキーパーこそ真の勇者であることを考えさせられるだろう。彼らは見た目にはゴールを守っているようにみえる。ただ、彼らの精神状態はといえば、常に攻めている、といえよう。ゴールを割らせてはならないという責任感やどんなシュートに対しても恐れない。とくに、この本でとりあげられているハンドボール水球ゴールキーパーにはその傾向が強いように思える。

この本の特徴は、ゴールキーパーといえばサッカー、という一般的な思考ではなく、ゴールキーパーというポジションをもつあらゆるスポーツに焦点を当てていることである。とくに、サッカーのディド・ハーフナー(現・コンサドーレ札幌コーチ)とアイスホッケーの春名真仁(元・日光アイスバックス)の異色対談はゴールキーパーとはなにかという、ゴールキーパーに共通する心理がよく表れている。

普段どうしても軽視しがちなゴールキーパーの存在を他のフィールドプレーヤーよりも大きくする効果がこの本にはある。スポーツを観る人やする人にはとっておきの本になるちがいない。