読後感:小齋秀樹『Goalへ-浦和レッズと小野伸二-』

自分にとって待望の本が出た。これが読み始めたときの率直な感想である。
浦和レッズに関する著書はこれまで数多く出版され、私もいくつか読んだ。ただ、私が読んだ本の多くはサポーターの視点や彼らの言動から描かれたものであった。

たとえば、2000年に出版された山中伊知郎著『勝て!!浦和レッズ』や豊田充穂著『生還-浦和レッズJ2戦記-』などの昨年のJ2の観戦記がそうだ。これらの著書は、著者がサポーターと一緒にレッズと1年苦楽をともにした記録である。無論、これらの著書はサポーターの視点に立っているので、読者とすれば入りやすい。しかも、他のクラブはどうか分からないが、レッズ・サポーターの特異性がよく分かる。駒場を赤く染めるサポーターの内幕をかいまみる感じだ。

2001年の2月に出版された清尾淳『浦和レッズがやめられない』は上記2著とは若干毛色が異なる。彼の著書で取りあげている内容は、レッズのサポーターになるまでの軌跡を述べたものである。ファンからサポーターへ。どうして浦和レッズなのか。これを個々人の体験を紹介したものである。ゴール裏で熱い檄を飛ばすサポーターの中にはこのような人々がいたのか、全国各地にレッズを愛する人々がいたのか、という驚きを感じた。私がレッズを愛するようになったのは別稿に譲ることにする。

レッズの創生期を表した大住良之著『浦和レッズの幸福』はレッズのファンやサポーターならずも一読すべき著書であろう。もちろん、レッズに関する記事が主であるが、たとえば、駒場の芝生を通年使えるようにするにはどうすればよいのか、といった記事は必見である。駒場を管理する松本氏は浦和市の職員であったが、駒場の芝生を通年使用にする作業を経ることで、ついにはJビレッジの芝生の管理をまかされるまでに至った。その苦難の道のりは感極まるものがある。

以上3点の著書はレッズのJ2時代を述べたものであるが、ここで紹介する『Goalへ-浦和レッズ小野伸二-』はこれらの著書と全く逆の視点から描かれている。選手を中心に描かれているのだ。この選手を描くという作業は非常に困難なものであろう。常に選手に帯同し、選手の本音を聞き出すために選手との間に信頼関係を築かなければならない。通常、新聞記事などで紹介される選手のコメントは記者会見の場でのものだ。著者、小斎秀樹氏はみごとにレッズの選手との間に信頼関係を築いた。

副題には小野伸二が入っているが、実際のところは小野以外の選手にスポットを当てているように思う。たとえば、ミスター・レッズこと福田正博鹿島アントラーズから移籍してきた阿部や室井。最終ラインを任された西野努。新鋭ゴールキーパー、西部。野人、岡野雅行。彼らの肉声は通常では得られないものばかりであろう。リーグ開幕から2000年11月19日までの全40試合の選手の心の動きをみごとにまとめている。レッズにとってサポーターはクラブ関係者と同等の地位にあり、その影響力は計り知れないものがあり、彼らにスポットを当てることはなんら異議はない。ただ、選手の肉声を用い、2000年度のレッズを語った著書はこれだけであろう。これこそ、この著書のもっとも評価すべき点である。著者はあとがきで次のように述べる。

 恐らく、この本はスポーツノンフィクションとしてはそれなりに売れることだろう。特に局地的には。だが、それは"浦和レッズの本"だから売れるのだ。
 とりあえずは、それでいいと思う。けれども、読み終わった後に、「レッズのネームバリューに乗っかっただけの本じゃなかったな」と思ってもらえれば、この本は成功である。

まさに、私はみごとに著者の術中にはまった。もちろん、初めはレッズ本として。最期は選手の心の動きを、スタジアムでは決して手に入れることができないものを得た気がする。副題に「小野伸二」が入っているから、小野伸二のファンはひょっとしたらがっかりするかもしれない。小野伸二に関する記事は少ないからだ。小野伸二のファンであって、レッズのファンではない人も読むかもしれない。ただ、小野伸二の記事が少ないからといって、この本を途中で投げ出すことはおそらく無いはずである。駒場で、テレビで、大原サッカー場で、得ることのできないものを得ることができるのであるから。