日本ダービーを外国産馬に開放せよ

今年も第65回日本ダービー武豊の一人舞台で終わった。栄光の第65回日本ダービーを制したのはスペシャルウィークである。スペシャルウィークの父はサンデーサイレンスである。サンデーサイレンスという馬はアメリカで2冠を制し、年度代表馬に輝いた名馬である。さらに、昨年のダービー馬はサニーブライアンで、父はアメリカの2冠馬ブライアンズタイムである。第63代ダービー馬はフサイチコンコルドで、父カーリアン持込馬である。第62代ダービー馬はタヤスツヨシで、父はサンデーサイレンスである。このように、最近のダービー馬はすべて父が外国産で占められており、父が内国産馬のダービー馬は第58回のトウカイテイオーまでさかのぼる。

このデータはなにを意味しているのだろうか。私がいわんとしていることは、ダービーを内国産馬に限定するのは時代後れであるということである。父が外国産馬である以上、外国産馬(まる外)も同じ条件である。

内国産とまる外の決定的な違いはどこで生まれたかである。日本で生まれたら日本ダービーを筆頭にあらゆるGⅠ競走に出走できるが、外国で生まれたら4歳春のGⅠはNHKマイルCしか出走できない。出走できるとしても古馬のGⅠである安田記念宝塚記念である。同じ日本所属なのにどうしてこのような差別があるのだろうか。

ところで、欧米では馬の区別をするのに産地ではなく、厩舎で行うのである。つまり、調教を行っている国が所属の国になるのである。先日、シーキングザパールタイキシャトルがフランスに遠征したが、彼らは産地がそれぞれアメリカである。しかし、日本で調教し、デビューしたため、彼らは日本馬とみなされている。すなわち、欧米では生まれた場所が問題ではなく、デビューしたところが重要なのである。

では、これがグローバルスタンダードだとすると、日本はなぜ産地で区別するのだろうか。この答えはJRAの目的にある。JRAの目的は畜産の改良にある。つまり、畜産技術を開発・発展させるために競馬というもので資金なりを得るために始められたのである。日本の畜産業を発展させるためにはもちろん良馬を輸入することも必要だが、日本の土壌で生まれ育たなければならない。農林省は大蔵省などの他の省庁と同じように畜産業を保護してきたのである。畜産振興こそ中央競馬意義である。畜産業を支えているのは言うまでもなく牧場経営者である。牧場経営者の保護を図るためには外国産馬を冷遇し、内国産馬を優遇することが簡単な保護策である。大型経営者は彼ら自身に財力はあるが、中小経営者にとってみれば国の保護を受けざるを得ない。すなわち、護送船団方式が牧場経営にも採られていたのである。

しかしながら、牧場を振興するために護送船団方式を採用しつづける時代はもはや終わったといってもよいだろう。なぜなら、JRAや個人で外国の優秀な種牡馬を廉価でシンジゲートを組み、購入するケースが増えているからだ。最初にも述べたように、サンデーサイレンスブライアンズタイムのほか、凱旋門賞トニービンや歴代のイギリスダービー馬など大物種牡馬が輸入され、「日本は名馬の墓場」と揶揄されるほど日本には優秀な種牡馬が安い値段で種付けされている。さらに、外国産馬(まる外)の出走数が全出走数に占める割合は約4割である。このようなデータもある。昨年GⅠ競走は20レース組まれたが、まる外が出走できるレースはフェブラリーS、NHKマイルC、高松宮葉杯、安田記念宝塚記念秋華賞エリザベス女王杯マイルCSジャパンカップ阪神3歳牝馬S、朝日杯、スプリンターズS有馬記念の13レースである。このうち、まる外が優勝したレースは6レースである(ジャパンカップは外国所属馬が優勝)。つまり、内国産馬でも十分にまる外に太刀打ちできることをこのデータは示している。このような状況を鑑みると、もはやまる外と内国産馬を区別する必要性はないといえよう。

マル外のダービー出走に反対する意見としては、主なものがいくつかある。第一は馬産地の保護がなくなり、中小経営者が路頭に迷ってしまうという理由が考えられる。この意見ははなはだおかしいであろう。なぜなら、競馬界も市場原理に任せる時代になってきているからだ。いまだに庭先取引が全取引の大多数を占めていること自体がおかしいのである。確かに庭先取引が中小経営者の財政基盤になっていることは否定できないが、その売られる馬の価値が偏った価値になったり、優秀な調教師に馬が回らないという負の面が大きいであろう。今後は庭先取引ではなく、市場で売買するのが世の趨勢であり、市場で取引が行われるということはガラス張りの取引であることを意味している。馬を持ちたい育てたいという人皆に公正な場を提供できるからである。

また、庭先取引は競争を排除していることを表わしている。つまり、先ほどとかぶるかもしれないが、競争のない取引は発展性を阻害しているともいえるだろう。取引を市場で行うことで、競争を促進し、さらなる品種の改良意識が高まるであろう。マル外を内国産馬と同じ条件で扱うことでも競争を促進し、日本競馬界のさらなる発展に寄与できると考えられる。異業種のトヨタやホンダ、ソニーが海外と対等に戦えるのはまさに国際競争の中で成長したからである。シーキングザパールタイキシャトルが海外GⅠを優勝した今、日本競馬界は新たな局面を迎えたことを認識しなければならない。競馬の売上が減少している現在、新たな顧客を獲得するためにも魅力あるレースを提供しなければならない責任がJRAにあるだろう。海外に目を向けたホースマンが増えつつある現状を考慮すると、マル外と内国産を区別することはもはや日本競馬界にとって有害である。日本競馬界のさらなる発展のためにも、マル外のダービー出走を認めるべきである。