日本対ナイジェリア 観戦記

ひさびさに日本代表戦を観戦できるとあって、戦前は胸躍ったが、実際スタジアムに足を運んでみるとそれは失望に代わった。いや、もともと潜在的にあったものが表出しただけかもしれない。その理由はいくつかあげれられる。一つは、日本代表よりも浦和レッズの方が大事であること。二つ目は親善試合であること。三つ目は、代表戦の雰囲気。これらをからめながら、ナイジェリア戦を振り返ってみようと思う。
 
試合はテストにもならない程度であった。ナイジェリアはスーパーイーグルスの面影もなく、ただ頭数を揃えて、試合をしただけ。ヨボ、オコチャ、カヌなどのトップクラスの選手は来日せず、知った名前もオパブンミぐらい。来た選手も当日や前日に来日したばかり。ナイジェリアにとってこの試合はどういう位置付けであったのだろうか。暫定監督であったとしても、それはいいわけにすぎない。若手を試すといっても、内容が内容だけにトップクラスの選手がいなければ、なんら役に立たないということが分かったことが収穫か。時折、ナイジェリアらしいプレーもあったが、モチベーション、経験、戦術があきらかに不足している状態では日本に勝つということは不可能だ。
 
ひるがえって、日本はといえば、世界で名をとどろかすナイジェリアとあって、ヨーロッパで活躍する選手をほぼ強引に招集し、万全の態勢で望んだ。結果からすれば、この心配は徒労であったが、来日メンバーをみれば、国内組でも十分太刀打ちできたことはあきらかかもしれない。イタリア組は開幕直前ということもあり、コンディションが悪かった。ヒデはほとんど仕事をしなかった。柳沢は日本にいたときと変わっていなかった(1ヶ月ぐらいでは顕著な変化はみられないか)高原は2ゴールをあげたが、ユニホームを脱いで喜ぶほどのものではなかった。本人にとってみればポーランド戦以来であるから、うれしいに違いない。高原の先制点でこの試合は事実上終了した。ディフェンスもナイジェリアの拙攻により、経験を積むことができなかった。アレックスが終始上がっていたので、実質的に3バックであった。試合開始当初はナイジェリアのスピードになれない部分もあったが、特段のピンチも招くこともなく終始無難に終えた。収穫はナイジェリア独特のスピード、身体能力を味わうことができたことぐらいだろう。相手が強くないと燃えない暢久にしてみれば、無理しなかったのは自明の理であった。坪井も試合開始当初は危うい場面もあったが、これは経験とともに解消されるものだろう。宮本とのコンビもよかった。3人(暢久、坪井、宮本)の意思疎通は洗練されてきているのではないか。相手がほとんど攻めてこれないので、それほど中盤にプレッシャーがかかることもなく、逆に経験を積むという面でみれば、ほぼ意味のない試合になってしまった。それゆえ、5人の交代枠を使い切らなかったことは残念でならない。後半はヨーロッパ組を下げて、控えに甘んじている選手を起用し、チーム内の競争を活性化させることも重要である。久保がみれなかったのは残念だった。
 
見る側からしても、これほど退屈な試合はあまりない。エキシビジョンマッチを見ているようだった。応援にしても、耳に入ってくるものがむなしく響いてくるのみだ。スタジアムの一体感を誘うような応援もなく、柳沢と大久保のコールは時機を逸したものが多かった。テレビで見るフラッシュの嵐も、現場で見てもそう変わりはなかった。自分が一体なにをしにきたのが分からなくなるようなスタジアムの雰囲気だった。レッズ戦では見にくる人は見にくるだけでなく、選手とともに戦う意思をもっている。スタジアムが一丸となって戦う雰囲気を身にまとう。指定席に座した人々も試合が始まれば戦う意思を表明する。代表ともなれば、国を代表するだけにさらなる戦う意思をもって選手をサポートするのではないか、という甘い幻想は見事に打ち砕かれた。サポートするという概念はゴール裏を除いて見られることがなく(ゴール裏にしても時機を逸したものも多く、洗練されていないが、サポートするという気概は見られた)、特定の選手の一挙一足に振り回されるのみ。
 
テストマッチだから、といってしまえばそれだけだが、どこか昨年のワールドカップを思い出されてしまう。しずまりかえった仙台スタジアムもそうだった。ひょっとしたら、Jリーグに、特に、特定のチームに思い入れのある人は、代表の試合がつまらなく感じることも多いのではないか。自分自身、レッズとともに青年期を過ごし、ここ数年は金銭や時間に余裕があるから、スタジアムにもたびたび足を運ぶようになっている。普段見ている選手が代表に選ばれ、その晴れ姿を一目見ようと代表のゲームに足を運ぶ。ところが、上述のように、普段とは勝手が違い、周りに合わせながら応援するも、いまいち盛り上がりに欠ける。そう、日本代表はおらがチームではない、という感覚を肌で感じるのだ。この感覚はナイジェリア戦に行く前から感じていたものであったが(なんとなく数年前から感じることはあったが)、それが事実として判明した。そう、レッズの成績が重要であって、代表は余興にしか思えなくなってきている。ひょっとしたら、代表に熱を入れる人は、代表しか真に応援、サポートしていないのではなかろうか。どこのクラブを応援することもなく、日本代表を一つのクラブとして応援、サポートするのだろう。それゆえ、こういったタイトルを獲得する試合でない場合、スタジアムから足が遠のいてしまうのはいたしかたないところかもしれない。そう、日本代表の試合がクラブの試合よりも魅力的ではないのだ。改めて私自身がレッズの中毒になっていることが明らかになった一夜だった。これからはよほどのことがないかぎり、日本代表のゲームに足を運ぶことはあるまい。