日本対韓国 観戦記(2):永井雄一郎

シンデレラ・ボーイの出現。世論はそう評するかもしれない。欧州組は来ない。日本にいるFWはケガばかりでメンバーがそろわない。そうしたときに選ばれたからこそ永井のゴールが大きな意味をもつことになるだろう。
 
よほどのコアなファンでなければ、彼の名前は知られていない。所属、浦和レッドダイヤモンズ。今年から永遠のゴールゲッター福田正博が背負ったナンバー9を継ぐ男。昨年はエメルソンやトゥットといった外国人FWに隠れつつも、9月のベガルタ仙台戦での華麗なVゴールを決め、レッズだけでなく、サッカーファンを魅了した黄金の3トップを形成した。今季、トゥットの抜けた穴を埋め、エースナンバー9を背負い、レッズサポの期待を一身に受けるまでになった。
 
ただ、永井雄一郎の名は、昨年のブレイク(?)に知られることになったわけではない。永井の「代表」とつく試合での最新のゴールは、記憶が正しければ、1999年のワールドユース準決勝の決勝ゴールであるはずだ。1979年生まれの永井は、小野や高原といった今の日本サッカーを背負う世代である。ワールドユースでの活躍は、レッズに大きな期待を抱かせた。ただ、レッズには1995年に日本人として初の得点王となった福田正博がいた。その存在ははるかに大きいものであった。永井がレッズに入団したときには、野人・岡野、快足・大柴とスピード自慢のFWがいた。永井は、そのFWにはない華麗なテクニックを、ドリブルをもっていた。その持ち味を十分に発揮した国際舞台こそ1999年のワールドユースであった。
 
ワールドユース後、レッズは1999年にJ2への陥落を味わい、2000年をJ2で過ごし、2001年にJ1復帰。2001年、2002年と永井はベンチ入りするも先発することはなかなかかなわなかった。2001年夏にはエメルソンが加入し、FWはエメルソンとトゥットで固定されることになった。そのなかで、くさらずに努力をかさねた永井は、先述したように、昨年のベガルタ仙台戦でVゴールを決め、外国人FWの一角を崩すまでになった。
 
永井の魅力はなにか、と問われれば、テクニックを凝縮した動き出しからフィニッシュに至るまでのドリブルであろう。スペースがあればあるほど彼の能力は発揮される。永井がボールをもてば、ドリブルを期待しないわけにはいかない。無論、ドリブルだけでなく、時にトリッキーなシュートを放ち、ゴールを奪う姿は観衆を歓喜の渦に巻き込む。先日の韓国戦は彼の特徴がよく出た試合だったように思う。
 
韓国戦のゴールは、相手DFを股抜きしたボールがやや長く、DFにクリアされる寸前で永井の足が伸び、クリアボールをブロックする形でゴールに吸い込まれた。偶然に見えるゴールもやはり必然であったように思う。偶然の背後には必然的ななにかがある。レッズで得た経験は国際舞台で生かされた。永遠のミスターレッズ福田正博、レッズ史上最も危険なFWエメルソン。彼らにもまれ、スタメンの座を腐らずに狙ってきた努力の結果がこのような結果をもたらしたといっても過言ではあるまい。テクニックはあるけれど、どこか脆い一面をもつ永井にとって、日韓両国が注目する試合で、ゴールへの執念を見せ、ゴールを決めたことは大いなる財産になったと思う。ミスターレッズの称号をもつ男の背番号を引継ぎ、過度のプレッシャーがかかっている現在、このゴールで一皮むけるかもしれない。アウェー韓国といっても、スタジアムが赤く染まった光景は、特段彼にとって目新しいものではない。サポーターの大音量で赤く染まるスタンド。それはレッズのホームゲームの光景である。赤く染まったスタンドでのゴールは今季まだこの韓国戦だけである。こんどはホームで、華麗で、しかも執念を見せるゴールをみせてくれるに違いない。永井がゴールを決めたとき、ほぼ勝利を手にしている(詳細なデータは分からないが、記憶が正しければ、1敗しかしていないはず)。そのジンクスはA代表のゲームでも発揮された。永井が決めれば、勝利がある。永井のゴールこそ、低迷するレッズの起爆剤となることだろう。