9月の読書記録

昨年来、本に関する記録をとっている。購入した本の日付とタイトル。読んだ本の読書期間とタイトル。多くの場合、購入した本の方が読んだ本よりも多い。在庫が切れると不安になるからである。つねにストックがあるようにする。そして、常時2〜3冊併読する。これについては以前述べた。
 
9月は19冊読んだが、これは多い方である。5月は18冊だったが、これは一人旅をしたことも要因の一つ。8月は18冊。これについては第75回で述べた。ほかの月は10冊程度となっている。昨年は論文を書きながら読んだこともあり、少ないというデータがある。当然のことながら、趣味で読む本と論文を書くために読む本は別である。
 
19冊のうち、半分程度が小説。しかも、ディック・フランシスと宮部みゆきだ。宮部みゆきは9月の上旬に光文社文庫で『クロスファイア』が出たことも影響している。ディック・フランシスは8月から読み始めているから、まだまだ続く。
 
ディック・フランシスは、『飛越』、『罰金』、『査問』の3冊。このうち、『飛越』は競馬の描写はほとんどなく、飛行機の描写がすばらしい。舞台はイギリスとイタリア。主人公は競走馬の飛行機輸送の仕事に従事しているが、その雇い主が違法行為を行っている。それを知ったために命を狙われる。最終局面のイタリアからイギリスへと向かう描写は圧巻だ。競馬だけでなく、飛行機物も書けることを証明した。『罰金』は競馬記者が記事のために危機に陥る事件を扱っている。『査問』は題名のとおり、レースに関する裁決をめぐるミステリー。裁決委員が謎の人物に圧力をかけられ、調教師と騎手を免許剥奪をおこなう。嫌疑をかけられた騎手が冤罪を証明するまでにスリリングな展開をみせる。が、最後のオチはちょっとイマイチかな。
宮部みゆき。もういわずもがなの作家であろう。『クロスファイア』は作者得意の超能力物だ。これは『鳩笛草』に収められている「燔祭」を広げた長編となっている。超能力をどのように利用するのか。それがテーマの根底にあるような気がした。
 
麻生幾『宣戦布告』もおもしろかった。北朝鮮と思われる不審潜水艦が若狭湾に漂着する。その潜水艦の乗組員は武装して、逃走している。漂着地の近くには原子力発電所がある。潜水艦には原発の詳細な地図が残されていた。武装した乗組員をどう捕らえるか。専守防衛をうたう日本になにができるのか。自衛隊を派遣することによる波紋はどうなのか。微細に書かれる描写はリアリティーにあふれている。だが、最後の締めは個人的にはイマイチな気がする。盛り上げておいて、それはないだろう、と。作者にとってこれが初の小説らしいから、今後に期待してみよう。
 
高橋秀実『からくり民主主義』。話題になっていることに対して、作者が現場で調査する。調査対象は住んでいる人々。住民の声をひろっている。興味深いが、インタビューで終わっていることが残念だ。民主主義と題名であげているから、すこしは踏み込んだ作者の意見を述べてほしかった。そう、結論がない。こんな話ききましたよー、こんな事実がみつかりました、というレポートにとどまっている。
 
市川伸一『学力低下論争』。近年話題沸騰の教育問題をとりあげる。あちこちで書かれた本なり論文、評論を筆者の主張をまじえながらまとめたものだ。これを読めば学力低下問題について一通り分かるようになっている。これに似たタイプが「中央公論」編集部・中井浩一『論争・学力崩壊』(中公新書ラクレ)だろう。学力低下問題といえば、7月に行われた埼玉県の教員採用試験の論文に出された。筆者はこの著書のなかで、冷静な議論がなされていない、ということを指摘している。私も同感だ。教育問題とは他分野と密接にからみあい、社会問題のなかにもくくることができるかもしれない。そして、しばしば陥りがちなのが行政側に対する批判だ。旧文部省が、学校(公立)が悪い。学校になんでも問題を投げているにもかかわらず、その対応ができていないと批判する親。そういった構図が私にはしばしば見うけられる。私が現場にいなから、そのように見えるだけかもしれないし、身近に学校関係者がいるからかもしれない。本来ならば、大人が襟を正し、こどもたちの見本とならなければならないはずだ。新聞、テレビでは政治家、官僚だけでなく、民間でも違法行為を行う人々であふれている。こどもたちが暇つぶしに見ているテレビではそのような大人しかうつしていない。こどもたちが将来への希望もなくし、学問に対する興味を失いがちなのも、そのような要因があるからではないか。サラリーマンで安穏に生涯を終えることも難しくなっている。文部科学省は「生きる力」を宣言した。今後の成り行きを予測するうえで、この著書は有益になるだろう。
 
山岡淳一郎『マリオネット』。読売クラブの裏方の仕事ぶりを著わした好著である。日本サッカーがプロ化する前に照準を当てる。読売クラブが日本一に導かれるまでにどのような努力があったのか。そしてプロ化してどうなったのか。その人の名は佐藤英男。読売を離れ、レッズにも貢献。副題には「プロサッカーアウトロー物語」とついており、佐藤本人のいきざまを(まだ故人ではない)アウトローにみたてる。個人的には彼のことをアウトローとは思わないが、選手やスタッフといった表舞台に出てこないという意味でアウトローという語を用いたのだろう。事務処理からスカウティングまでをこなし、読売クラブを日本一にしたてあげた人物をアウトローとは思えず、主役の一人だ。80年代の日本サッカーを知る上で、重要な書物になるだろう。
 
湯浅健二『サッカー監督という仕事』。サッカーを見ている人なら一度ぐらいは湯浅健二の名を聞いたことがあるだろう。ドイツプロコーチのライセンスをもち、現在はコンサルタント会社とサッカー解説という二足のわらじをはいている。浦和レッズをしばしば論評し、レッズの番組にも出演している。彼のホームページでは、Jリーグ各節に1試合程度解説を加えている。ホームページは「リンク集」にリンクしてある。さて、この著書だが、サッカーのことを書いてあるけれども、教育書といってもおかしくない気がした。無論、サッカーのことだから、優れた選手を見出すことは当たり前なのだが、こどもたちの素質をいちはやく見出し、その素質を開花させることはまさに教育に通じるものがあるだろう。

今回はこのへんで終了としよう。